フードライターが嚥下食に興味を持った理由②
- 小西由稀
- 2024年3月27日
- 読了時間: 5分
嚥下食メニューコンテストへの挑戦

この記事は「フードライターが嚥下食に興味を持った理由①」からの続きです。
室蘭の「ケセラネットワーク」は、自分たちの嚥下食のレベルを知るために、「嚥下食メニューコンテスト」に挑戦した。それが前記事の最初の画像「蝦夷鹿のムースと北海道産男爵芋のピューレ ケセラ仕立て」。
嚥下食にコンテストがあること自体驚くが、2024年で11回目を迎える。44作品の応募がある中、ケセラネットワークは見事に予選を通り、決勝審査会にノミネートされた。私も応援と嚥下食の勉強を兼ね、東京ビッグサイトに出かけた。
決勝審査会には5作品が登場。どれも嚥下食とは思えないほど、見た目がおいしそう! 試食はないので、味わいまではわからないが、実演の様子や解説を聞きながら、嚥下しやすいよう、さまざまなアイデアや工夫を重ね、練りに練った作品であることは伝わってくる。特に病院や施設の調理師・栄養士の作品からは、具体的に食べさせたい患者・利用者を思い浮かべながら作ったのであろう愛情が、にじみ出ていた。

さて、我らがケセラネットワークは、丁寧な下処理をしたエゾシカをムースにし、エゾシカのフォンにヤマブドウを合わせたソースで仕上げた一品。男爵芋のピュレ、リンゴのピュレ、エストラゴン、グリーンマスタード、そしてローズマリーと、酸味や甘味、香りで味わいの楽しさをプラスした。
今回グランプリは逃したものの、初挑戦で優秀賞(3位相当)はあっぱれ! おめでとうございます!
ほかの作品もちらっとご紹介。

和牛の寒天ステーキとフォアグラ風ムースの五感で楽しむロッシーニスタイル
応募者/医療法人 ゆうの森
最優秀グランプリに輝いた作品。ターミナルケアなどで、食べたいメニューの上位にあがるのが和牛。その思いを叶えるべく、和牛は柔らかく煮て、細かく刻み、ブレンダーにかけ、寒天で固めてステーキ状に。竹炭パウダーをかけ、バーナーで炙って焼き目を演出。ロッシーニ風のフォアグラは鶏レバームースで代用した。
このチームが大きな評価を得たのが、チュイールやグリッシーニなど、食感に変化を生むための演出。さまざまな食感があると誤嚥につながりそうな印象を持つが、口どけをなめらかに工夫している点がすばらしい。毎年のように参戦して、ようやくつかんだ最優秀グランプリに、会場からは温かい拍手が。

口福膳(嚥下食コンテストSPバージョン)
応募者/日本料理かんさい
準グランプリはコチラ。とにかく彩り豊かで目にも楽しめるお膳。解凍しても離水しない技術を企業と一緒に開発。このお膳を冷凍で全国に発送するビジネスを展開中。

刺身・握り寿司「博多前」
応募者/桜十字福岡病院
和牛と並び、食べたいものランキングで上位にあがるのが握り寿司。寿司種はみじん切りにし、さらに叩いて、ゼラチンを加え再形成。酢飯にもゼラチンを加えて食べやすく。醤油やワサビは増粘剤でとろみをつけるという配慮も。

お酒のあては、さざえのつぼ焼きといかの塩辛
応募者/社会福祉法人慶寿会 松林ケアセンター
こういう酒肴も嚥下食で作れるのかと、びっくり。亡くなったお酒好きの利用者に捧げた作品。卵白やはんぺんを利用して、飲み込みやすさを担保。嚥下のレベルによっては、日本酒も誤嚥につながるため、とろみのついた日本酒があるのだそう。飲んでみたいなぁ。

審査員を務めた「アルポルト」の片岡護シェフにケセラネットワークの作品の感想をインタビューすると、「(嚥下食にするのに手間がかかる)赤身肉のエゾシカを、あそこまでおいしく食べやすく調理した技術が素晴らしかった」と、お褒めの言葉が。
審査委員長の金谷節子先生からは「さまざまなプロたちが地域全体で嚥下食に取り組んでいることが素晴らしい」との言葉をいただいた。
音喜多さんは「いい勉強になりましたし、今後のメニュー開発へのいい刺激ももらいました」と、笑顔で答えてくれた。音喜多さん、佐々木さんをはじめ、ケセラネットワークのみなさん、本当にお疲れさまでした!
ますます拡大する介護食品市場
東京ビッグサイトでは「Care Show Japan」が開催されていて、介護・医療・予防・ヘルステックに関連するブースが多数出展。介護食・嚥下食・ユニバーサルデザインフードを含む「メディケアフーズ」には伊藤園、マルハニチロ、東洋水産、森永乳業などの食品・飲料会社、外食チェーンでは吉野家といった大手が参入していた。吉野家が開発したウナギの蒲焼きを試食させてもらうと、舌でつぶせる柔らかさで、見た目も味わいも食欲をそそる完成度。マルハニチロのメディケアフーズは種類が多彩で、味もおいしく、商品づくりに愛を感じた。

Care Show Japanのサイトによると、高齢者向け食品(在宅向け・施設向け合わせ)の市場規模は「2025年には2,046億円の予測*」とある。
*資料:株式会社富士経済「高齢者向け食品市場の将来展望2019」
今回サクっと視察しただけだが、高齢化が進む中、単に「食べやすい(噛みやすい、飲み込みやすい)」だけでは選ばれにくい市場になりつつあることを感じる。介護の現場は慢性的な人手不足なので、時短や調理の簡略化は必須だけれど、その一方で食べることを大切にするニーズは確実に高まっていくように思う。嚥下機能が弱くなっても、食べる楽しみ、食べる幸せを味わえる。そんなメディケアフーズの今後を気にかけ見ていきたいと思う。
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